親の愛情

 

         ある日のできごとであった。


         私は仕事ですっかり帰りが遅くなり、駅に着いたのが23時36分だった。


         この日は朝雨が降っていたため、私はバスを利用した。しかし帰りのバスはもう無かったのである。


         仕方がないので私は歩いて帰ることにした。


         コンビニでコーラを買い、そいつを飲みながら歩いて家へ帰る…。


         
仕事で疲れていたせいか、つめたく冷えたコーラは表の寒い空気にもかかわらず私を存分に癒してくれた。



         どれくらい歩いただろう…。



         ふと携帯電話の時計を見ると12時10分を示していた。


         「遅くなりすぎたな。家のカギしまってるやろなぁ…」と独り言を言ってしまった。


         
久しぶりの独り言でつい、誰かに聞かれていないか気になり周りを見渡してしまった。


         …とそんな自分にも気付き余計に恥ずかしくなってしまう。


         
一人きっしょいニヤけ顔を浮かべながら家まで歩いて帰る。


         案の定、家のあかりは一切ついておらず、アホ犬がワンワン吠えて飼い主である私を威嚇している。


         ワンワン…    


         あぁ近所迷惑だ… 早く家の中に入ってこのアホ犬の興奮を鎮めねば…


         こんなこともあろうかと家の鍵を私は持っているのだ。


         ガチャ…   鍵を差し込む


         が…!!


         回らない!


         「何でやねん!」と私はまた独り言を言っている。


         ウゥ〜、ワンワン!ワンワン…    


         無情にもアホ犬は飼い主である私に向かって威嚇をつづける。


         いかんっ!なんとかせねばっ!でも鍵は回らない…!



         どぉしよう…


         思いたった私はインターホンを押すことにした。


         ピーンポ〜ン…


         反応無し…


         こうなれば最後の手段だ!


         携帯から家の電話を鳴らす。


         トゥルルル…


         ピロロロロ…


         見事にこちらからのコール音と家の中から聞こえてくるコール音がシンクロしている…。


         約1分後…



         「あぁ、おかえりおかえり。」



         なんと素敵な母親だろう


         …夜中に叩き起こしてしまったこの私に対して文句1つ言わないのだ。


         「オフロ沸いてるわ。入りや。私はもう寝るからな。お休み。」


         何と優しいのだ私の母親は!


         母親を叩き起こした私は、ドアの外で鍵が開くのを待っていた時に少しでも、


         いや、思いっきり「はよしてくれよ…。たのむわ。」と思ってしまった自分を憎んだ。



         家に入り、風呂場へと向かう。


         浴槽のお湯が少しぬるかったように思ったので、44℃に設定し、私は腹が痛かったので便所へこもった。


         ダンっダンっ…


         誰かが階段を降りてくる音が聞こえる。


         「うう、あぁん、か〜っ…!!」


         タンがからんで寝ぼけている父親のようだ。


         便所のドアごしに、


         「おぉ〜…おかえりぃ〜。寒かったやろぉ、風呂であったまりぃ。ワシは茶飲んでまた寝るわぁ。」


         寝ぼけていてもコレまた何と優しい父親であろうか…


         私は何て幸せなんだ…


         便所から出た私は風呂へ入ろうと服を脱ぎ捨て、多少毛深いが、産まれたまんまの姿になった。


         「ん!?」


         風呂場の電気が消えている…  まぁまた点ければいいか…



         なっなぬっ!なぬっ!なぬぅ〜っっ!!?



         浴槽の湯がカラになっている… いつの間に!?



         父親しかいない…



         父親は寝ぼけていたので湯を抜いてしまったようだ…


         父親のあの言葉はいったい……!?



         しかたがない



         夫婦の連携による見事なまでの前振りとオチ…


         まんまとハマったことを思うと腹が立つどころか笑えてくる…



         浴槽につかることは諦めてシャワーを浴び、髪を洗う時に目を閉じながらも、


         私はまたまた一人きっしょいニヤケ顔を浮かべるのであった。

 

     

                                                             


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